おもちゃの病院創立10年 「 おもちゃドクター座談会vol.3」
子どもたちに “ものを大切にする心” を伝え、おもちゃへの興味関心を深めることをねらいとして、わらべ館で毎月開院している「おもちゃの病院」は、平成30年度に創立10年を迎えました。
これを機に、専門技術を持った “おもちゃドクター” として、長年「おもちゃの病院」を支えてきた、木村昭彦さん・宇田川知美さん・牧野契子さんと「おもちゃドクター座談会vol.3」を開催。
おもちゃ修理のボランティアをはじめたきっかけや活動のやりがいについて、わらべ館の山本がお話をききました。
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山本:
いよいよ今年度も残りわずかとなりました。平成30年度は、わらべ館「おもちゃの病院」にとっても10年という節目の年でしたね。ここであらためて、おもちゃドクターのみなさんとこれまでをふりかえりながら、この活動への想いをきいてみたいと思います。
でははじめに、おもちゃ修理のボランティアをやってみようと思ったきっかけについて教えてください。
木村:
私は以前、宇宙開発関連のシステム設計技術者として県外の電気メーカーで働いていました。その後鳥取市にUターンし、現在は製品の評価試験や異物分析といった仕事を行っています。
趣味は、飛行機やヘリコプターといった“ラジコン”製作やフライトの他、2年前からはじめた“ベースギター”で、仲間とのバンド演奏も楽しんでいます。
おもちゃドクターに応募したのは、わらべ館がおもちゃを修理するお医者さんを募集しているといった新聞記事を読んだことがきっかけで、技術者としてのスキルが活かせるという活動に大きな魅力を感じました。
牧野:
私がおもちゃドクターに応募したのは、先におもちゃドクターとしてわらべ館で活動していた木村さんから声を掛けてもらったことがきっかけでした。実は、私も木村さんと同じバンドで演奏をしているメンバーなんです。
また私は、これまで保育士として働いていた職業経験もあり、このような活動に参加すれば、たくさんの子ども達の笑顔に出会えるのではないかと思い、得意の裁縫を中心としたサポートで、みなさんの仲間入りをさせてもらいました。
宇田川:
私がおもちゃドクターに応募したのは、鳥取市「市報」に掲載されていた“おもちゃドクター募集”の記事を読んだことがきっかけでした。
私は、パッチワーク等の“手芸”が趣味で、洋裁や編物をするのが好きです。ぬいぐるみを作ったこともあり、針や糸を持って自分で工夫しながら物を作る工程に興味があります。ボランティアとして自分の経験を活かし、お役に立てることがあればと、ぬいぐるみの縫合や人形の洋服を修理する、手芸分野でのおもちゃドクターに応募しました。
山本:
みなさん、ありがとうございます。おもちゃドクターは、専門技術が必要とされるボランティアなので、多様なスキルを磨かれた方々に支えていただき、とても感謝しています。
では実際に、おもちゃドクターとして、おもちゃ修理の活動をはじめてからは、どんな印象を持たれていますか。
木村:
おもちゃの病院で活動してきた10年を振り返ってみると、継続的に依頼も多く、印象に残っている修理が “電動のぬいぐるみ”です。
これは犬や猫をモチーフとしたおもちゃで、スイッチをオンにすると前進歩行や鳴き声といった電動部分が動く仕組みになっています。
修理として持ち込まれる事例としては、足が折れて歩行できない(全く動かない)や動きが鈍いといった様々なケースがあり、いずれの場合も機械本体の内部を取り出す為に、ぬいぐるみの毛皮(布)を切開する必要があるんです。
そこでいつも手を貸していただいているのが、裁縫の得意な宇田川さんや牧野さんなんですね。
宇田川:
そうなんですよね、この手のおもちゃは異なるスキルを持ったおもちゃドクターが、複数で力をあわせて作業にあたっています。
この例でいえば、ぬいぐるみの毛皮(布)を切開する時には、まず電熱で温めたコテを使って接着剤で貼り付けられた毛皮(布)を本体からはがし、手芸道具のリッパ-を使って、縫い目の糸を引き出しながらその糸を切り、ひとつずつ縫い目を広げて… 細かい作業になるけれど、この手順をくり返しています。修理が終わった骨格にぬいぐるみの毛皮(布)を被せ、切開した部分を最後に縫合して仕上げることを考えると、この切開法が最もキレイに復元できるやり方なんです。
牧野:
そうそう! 宇田川さんから聞いて、私もなるほどと思いましたが、縫い目の糸を切りながら開いていく切開のやり方は、確かに一番 理想的なんです。
縫い目のない布部分に直接ハサミを入れると、縫合する際、縫い代分だけ周りの布を巻き込んで縫うことになり、結局全体が少し短くなって 突っ張った仕上りになってしまうワケで…
木村:
そうなんだよね、その突っ張りも見た目の仕上りの良し悪しだけでなく、例えば間接部分のような動力に差し障りがあるような場所につかえてしまうと、せっかく動くように機械修理を施したところが、毛皮(布)につかえて動かなくなってしまったり… これだと失敗!
… なので私は、宇田川さんや牧野さんとコミュニケーションをとりながらの作業を大切にしています。
宇田川:
お互いにその人が得意とする分野では、相手に委ねた方が上手くいくことも多いですね。
また複数の人と一緒に作業することで、自分だけでは思いつかないアイデアがひらめくこともあります。
牧野:
そうなんですよね! 私は作業している中で、みなさんがあの手この手で発想を転換させながら、サイズや型のあわない部品を代用できるように加工して活用するとか、各人のそのクリエイティブな思考力に驚かされましたね。
木村:
そうですね、そういった使い方もあるのか! そんな驚きや発見は私たちおもちゃドクターにとっても互いに勉強になります。
私はおもちゃを修理する過程で、自分で考えて手を動かすという行為を、できるだけその持ち主の子どもにも体験させたいと考えています。
例えば “ドライバーを使ってネジをしめる” というひとつの作業でも、力任せにグイグイとしめればよいというのではなく、ドライバーの持ち方や力のかけ方等、道具も少し考えながら使うことで、ネジ穴をつぶさないとか…その物自体を丁寧に扱おうといった気持ちにつながってくる。
単におもちゃを修理するだけでなく、体験を子ども達と共有することで、その子の成長が感じられた時は、おもちゃドクターとしての喜びを感じます。
宇田川:
そうですね、それは私もわかります。
昨年12月に開催した、おもちゃの銀行「リサイクル☆ファクトリー」で行った “クリーニングワークショップ” でもそうでしたが、子ども達が自身で考え、自ら選んだ道具や洗剤でおもちゃを磨く…このような自分の手で手掛ける取り組みは、参加した子ども達にとっても、一層おもちゃへの愛着が芽生える機会となったのではないかと。一生懸命作業をしている子どもの真剣なまなざしや、ピカピカになったときの嬉しそうな笑顔を見た時には、改めてこの活動に携わったやりがいを感じましたね!
山本:
おもちゃ修理に携わってこられたおもちゃドクターの方々には、全3回の座談会を行い、創立10年という節目を機に、それぞれの想いをお話しいただきました。“ものを大切にする心” を伝え、おもちゃへの興味関心を深めることをねらいとして、これからも、子どもたちの成長に寄り添えるような「おもちゃの病院」の活動を続けていきたいですね!
みなさん、ありがとうございました。