旗源平(はたげんぺい)
大正~昭和初期
製造会社
不明
寸法
台:W900mm×H200mm×D210mm
紹介
旗源平は、石川県金沢市で江戸時代から続く正月遊びで、大中小の旗、纏(まとい)、サイコロ2つを使用します。江戸末期に加賀藩士の手によって、「治に居て乱を忘れず(平和な時代でも戦乱を忘れず、準備を怠らない)」という尚武の精神から考案されたと伝わります。昭和中頃までは、金沢市内の一般家庭にも広く普及していました。現在は主に小学校や公民館、博物館などで郷土の伝統遊び体験として催されています。
素材は主に布や紙製の旗と竹や木の棒です。『稿本金澤市史 風俗編第二』(1927)には「旗及び纏は、みな紙製なり」とあり、昭和初期段階で紙製の纏や旗に棒を指したものが普及していたことが分かります。当館所蔵(写真とは別品)の旗源平は金属製で、元々畳のヘリに差して遊んでいたため、棒の先端が尖っています。旗源平は現在、市内でもほとんど流通していませんが、インターネットでペーパークラフトキットのデータが公開されています。
遊び方
旗源平という名前の通り、白旗の源氏、紅旗の平氏に分かれて戦います。紅白それぞれ小旗10本、中旗5本、大旗1本、纏1本あり、サイコロの目によって旗をやり取りするというのが一般的な遊び方です。相手方の纏を先取したら勝ち、相手方の旗を全部取ったら勝ち、旗を取るのではなく、先に自陣の台座に旗をすべて立てた方の勝ちなど、ルールは時代や地域によって様々ですが、サイコロ2つを振って出た目により旗を動かすという点は共通しています。
旗源平のサイコロの出た目には、「ニサマノカンカンド(2と3)」「ゴッシリハナカメ(5と4)」「チンチンカモカモ(1と1)」など独特な呼称があります。一番良い目が5と1で「ウメガイチ」。これは加賀藩主前田家の家紋「梅鉢」が由来とされます。一番悪い目が4と2の「シノニ」で、死を連想させるためとされます。金沢出身の筆者も小学校時代、毎年町内会対抗旗源平大会に参加し、勝負中、味方からは「ウメガイチ」コール、相手方からは「シノニ」コールが巻き起こっていたことを記憶しています。
所蔵の経緯と特徴
写真の旗源平は、平成25年(2013)に神戸在住の方から寄贈を受けたものです。寄贈者が中学生の頃(寄贈時点より80年ほど前)に弟達が遊んでいた記憶があるそうです。詳しい入手経緯が不明ですが、製造・入手時期としては大正~昭和初期と推定されます。大切に保管されていたため、「源平旗遊び」と書かれた木箱や当時包装に用いていた新聞(昭和15年8月30日付)、手書きの説明書なども綺麗に残されています。
黒漆の組み立て式台座、塗装された棒、布に紋様が施された旗、と趣向が凝らされており、また大きさも一般的なものより遥かに巨大であることから、高級品であったことがうかがえます。現在金沢でも布製は受注生産されていますが、台座は白木のものであり、黒漆の台のものは販売されていません。
また、中旗が4本しかない(台の旗差し穴も16しかない)のも特徴です。現在遊ばれている旗源平は中旗5本ですが、『風俗画報』第229号(1902)の「旗源平遊び」では「源平各々小旗十本中旗四本大旗一本と他に纏一本」とあります。したがって、時代や地域、生産者の違いかは不明ですが、中旗が5本のものと4本のものが存在していたとみられます。この他にも、平家の家紋が揚羽蝶である点(現在流通しているものは浮線蝶型が主流)など、様々な違いがあり、戦前期の旗源平を知る上で大変貴重な資料といえます。
展示場所
1階 エントランスホール(2020年1月31日まで)