『時』童謠唱歌集
(写真: 6枚)
(写真: 6枚)
発行年月日
大正9年(1920)8月10日初版発行
出版社
女学生画報社
紹介
『時』童謠唱歌集は、「時」博覧会の開催とともに「時の記念日」が制定された大正9(1920)年に発行された楽譜集です。
大正9年8月1日から31日にかけて大阪府立商品陳列所で開催された「時」博覧会にあわせ事前に歌詞が募集されました。「時」を題材とした尋常小学校児童程度の内容であることが条件とされ、優秀な歌詞に永井幸次が作曲し、会場内で発表されました。この童謡募集は国民に時間を正確に守ることを習慣づける思想普及事業の一つとして、最重要と考えられていました。賞金は一等(1人)金200円、二等(3人)金100円ずつでした。
※当時の1円は現在の450円ほどの価値
7月10日付の大阪毎日新聞でたった一度の告知、しかも、わずか2週間ほどの応募期間だったにもかかわらず、1,100編を超える詩が集まりました。そして6名の審査員による幾度もの審査が行われ、一等1編、二等3編、選外佳作8編が選ばれました。そのすべてに永井幸次が直ちに作曲したのです。『時』童謠唱歌集には、これらの12作品と特別選1編の歌詞が掲載されています。
1冊10銭※で発売されたこの楽譜集は、大正9年8月10日の初版から版を重ね、ひと月後の9月10日には第5版が出版されており、売れ行き好調でした。また永井の自伝『来し方八十年』には、当選曲を博覧会会場で永井幸次自らがピアノを弾きながら来場者に教え、「夕涼みかたがた観覧する人も悦んで歌い、覚えていった」ことが記されています。
※当時の1銭は現在の20~70円ほどの価値
永井自ら博覧会会場で演奏・教授したことが、販売に一役買ったといえるでしょう。
(掲載作品一覧)
タイトル( )内は歌詞ページの表記 | 作詞 | |
---|---|---|
第一等当選 | 時 | 林吉之助 |
第二等当選 | 時 | 魚井栄一 |
第二等当選 | 時 | 森磯吉 |
第二等当選 | 時 | 青木実三郎 |
選外佳作 | 時はかへらぬ | 林吉之助 |
選外佳作 | 金より尊い(時の童謡) | 田淵巌 |
選外佳作 | 時 | 岡本澄歌 |
選外佳作 | 人を待たり待たせたり(時) | 三野トミ |
選外佳作 | 時 | 中村利雄 |
選外佳作 | 時は金 | 林吉之助 |
選外佳作 | 時の貴さ(尊さ) | 青木季子 |
選外佳作 | 生れし時(時) | 荒砥琢哉 |
特別選 | 『時の宣伝』童謡 | 亀井英次 |
タイトル( )内は歌詞ページの表記 | 作詞 | |
---|---|---|
第一等当選 | 時 | 林吉之助 |
第二等当選 | 時 | 魚井栄一 |
第二等当選 | 時 | 森磯吉 |
第二等当選 | 時 | 青木実三郎 |
選外佳作 | 時はかへらぬ | 林吉之助 |
選外佳作 | 金より尊い(時の童謡) | 田淵巌 |
選外佳作 | 時 | 岡本澄歌 |
選外佳作 | 人を待たり待たせたり(時) | 三野トミ |
選外佳作 | 時 | 中村利雄 |
選外佳作 | 時は金 | 林吉之助 |
選外佳作 | 時の貴さ(尊さ) | 青木季子 |
選外佳作 | 生れし時(時) | 荒砥琢哉 |
特別選 | 『時の宣伝』童謡 | 亀井英次 |
ひとこと
第一等当選の「時」は林吉之助の作詞です。林は、教職を退いたのち、郡山町(現奈良県大和郡山市)で詩歌専門の古書店を営んだ人物で、短歌の編集などにもあたっていました。林は一等のほか、選外佳作にも2編の入選を果たしています。
一等の作品「時」はのちに「お日さん」とタイトルを変えてレコード化されました。この曲は『小学校唱歌教材選集』『昭和唱歌集巻之二』『唱歌研究』など別の書籍にも掲載され、音楽とは無縁の小説などにも引用されて登場するほど人気の作品に成長していきました。
日時計という題材や、誰もが一度は感じたことがある影との関係など、子どもにとって身近なものをうたった林吉之助の詩が、永井幸次の覚えやすく親しみやすいメロディを得たことで、全国へ広がっていったのではないでしょうか。ぜひ皆さんも楽譜を見て歌ってみてくださいね。
展示場所
1階 鳥取の音楽家たちの部屋
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