闘球盤(とうきゅうばん)

(写真: 6枚)

(写真: 6枚)

わらべ館コレクション

制作年

明治末~大正初期か

制作

大一商店(東京市馬喰町 現・東京都中央区馬喰町)

素材

木製

寸法

卓部分 幅61cm×奥行61cm×高7.5cm、脚 長さ20cm(立てた時)

紹介

本資料は「闘球盤(とうきゅうばん)」という商品名ですが、世界的には「クロキノール(crokinole)」の名称で知られるボードゲームです。クロキノールは、1876(明治9)年にカナダ・オンタリオのエックハート・ヴェットローファー(Eckhardt・Wettlaufer)が創作したとされます。当時はカナダが英国領のため、イギリスのゲームと紹介されることもありました。カーリングのように円形の的上で得点を競う遊びを室内用にコンパクトにしたもので、2人もしくは4人が交互に指でディスク(駒)を弾く遊びは、彦根市の伝統ゲームとして知られるカロムとの類似性も指摘されています。カロムは四隅のポケットにディスクを落としていきますが、闘球盤は同心円状の中央部分を狙って得点を稼ぐ遊び方です。

このゲームのコンポーネント(内容物)は、時代やメーカーによってサイズや素材の違いはありますが、中央にはディスク(駒)1個が入るくらいの穴(直径3cm弱)が開いた大型の円盤(直径50㎝前後)とそれを囲む外枠(円形・方形あり)、一人12個のディスク(駒)で構成されています。円盤には、同心円状に三重丸が記され、中央に近い円から15点、10点、5点の境界があり、中央の穴に入れると20点となりますが、15点の円上には等間隔にゴムでカバーされた6本の杭(ペグ)が打たれ、その進路を狭めています。一番外側の5点の円には、4等分にされた印があり、自陣の範囲が定められています。

本資料は、直径47㎝の円盤に正方形の外枠、対角上に算盤の珠のような点数盤があり、もう一つの対角上には、ディスクを収めたであろう溝がつけられています。円盤上に打たれた6本の杭のうち2本は抜け、4本は盤に埋まり、進路妨害としての杭の機能はなくなっています。ディスクもありません。折り畳み式の脚を出して折敷に似た蓋をすると、座卓としても使えるため、実際に寄贈者は子供の頃、勉強机にもしていたそうです。座敷の生活を営む日本人に合わせて、脚付きに改良されたのではと推察されます。盤の裏には、「意匠登録 第一九四六号 闘球盤 大一商店 東京市馬喰町三丁目」の陰刻があります。

クロキノールの国内導入は、1903(明治36)年に刊行された『クロック術』(花王居主人)のはしがきや巻末の広告によれば、「クロックノール」(クロキノール)は長野県松本町(現・松本市)在住の「英國人」R・H・マギニス(R・H・McGinnis)が数年前に「本國」から取り寄せたことに始まるとあります。それをもとに同町の衣斐(いび)鉸太郎(こうたろう)が雛型を作り、教材などの販売を手がける秋山熊吉が製造販売に携わりました。ちなみに、このマギニスはカナダ聖公会の伝道師として1901(明治34)年に来日しており(三橋正幸、2015)、取り寄せた「本國」もカナダであったと想定されています。

クロック術

クロック術 四頁より

『クロック術』の序文(矢澤峯四郎)には、松本界隈では「ピンポン」と同じく人気を博す室内遊戯であり、気軽に導入できる上、老若男女の差無く、家庭内や社交上で最適の遊びと評されています。なお、同書が世に出るまでは、まとまったルールブックが無かったらしく、この刊行によって松本で製造販売されるゲーム一式の販促効果も狙っていたと思われます。書名やゲーム盤の広告に「クロック用具」とある通り、当時は「クロック」と略されています。

この「クロキノール」と「闘球盤」との関係については、遊戯具の意匠登録制度や商標登録制度との絡みによる、名称や形状の相違が指摘されています(三橋正幸、2015)。1904(明治37)年に意匠登録された「闘球盤」は、東京の大一商店で販売され、京都や大阪でも販売代理店があったことが、当時の広告から読み取れます。形状の異なる五種類の価格も表示され、当館の闘球盤は、その中で最も高価な「茶盆臺兼用 金五圓五十銭」ではないかと思われます。

ひとこと

2014年(平成26)に公開された『昭和天皇実録』に登場する、幼少期の昭和天皇(1901~1989)が興じられた「クロックノール」を「謎の遊び」とメディアが報じるや、時を置かずにボードゲームファンからクロキノールの可能性を指摘されました。

現在90歳近い寄贈者からの聞き取りによると、父親とその姉は子供の頃に遊んでいたが、自身はゲームをした記憶が無いとのことです。明治末から大正初期(1910年前後)、つまり昭和天皇と同時期に、米子のきょうだいも遊んでいたハイカラなボードゲームだったと言えます。

展示場所

3階おもちゃの部屋 2025年5月9日(金)~7月15日(火)(予定)

参考文献

  • クロック術』花王居主人編著 高美書店(高美実五郎) 1903年 国立国会図書館デジタルコレクション(2025年4月20日閲覧)
  • 「盤上遊戯「クロキノール(闘球盤)」の伝来と普及の一端」三橋正幸著 『レジャー・レクリエーション研究』第77号 第45回学会発表論文集 日本レジャー・レクリエーション学会 2015年 (2025年4月20日閲覧)
  • wikipedia「クロキノール」(2025年4月20日閲覧)